会社員から「伊佐沢すいか」2代目農家としての今/山形県長井市 志釜和紀さん

伊佐沢すいか


最上川を水源とするきれいな水、豊かな緑に囲まれた山形県長井市の東部・伊佐沢地区。ここは知る人ぞ知る「美味しいすいか」の産地です。盆地ならではの朝晩の寒暖差は果物や野菜を美味しく育みます。

2代目すいか農家・志釜和紀さんは就農して四半世紀になります。この地域のすいか栽培は、志釜さんのお父様の代頃から始まったそうです。規模が大きくないため、限られた量での勝負ですので、どこでも目にするメジャーな「すいか」の産地には敵いませんが「伊佐沢すいか」は小さな地域の中で丁寧にじっくりと愛情深く育てられています。切ってみるとその皮の薄さに驚きます。皮ギリギリまで美味しく食べられ、甘くてシャリっとした食べ応えのあるすいかです。なるほど、すいか好きにはたまらないすいかです。

失敗知らずの2代目農家


学校卒業後、志釜さんは一度会社員となりますが怪我をきっかけに就農しました。稼業を継いだ2代目ですが「親父から教わったことはない」のだそうです。「俺が就農して、2年、3年くらいしたら親父はラーメン屋を始めた」と、日に焼けた志釜さんは気さくに話してくれました。「でも、失敗したこともない」と何とも楽しそうです。では農業のイロハはどこで身につけたのか、不思議に思って尋ねると近所の同業の方というので、驚きました。

近所の方々が『何(農薬や肥料)使ったんだ?』『そろそろこれやったほうがいいんじゃないか?』と声を掛けてくれ、その時々に必要なことや畑の様子から助言をくれたそうです。今でこそ同業者の勉強会などは盛んに行われるようになって来ていますが、自分の技術やノウハウの門外不出はまだまだ多い中、志釜さんの場合は違ったようです。そういえば、長井市に来てお会いする方々はみなさん人当たりがよくあたたかな印象です。ゆったりめのお国言葉にも癒されます。穏やかな環境で日々を暮らしていると、人間的にも懐が深く、寛容になるのだろうと感心しました。


失敗はしないけれど、試行錯誤は20年


 暑い夏にはひんやり冷たいみずみずしいすいかが最高です。すいか農家にとって、売上を左右する夏の暑さも大切ですが、5月末〜6月上旬の交配時期も重要です。寒すぎると花が開かなかったり、うまく交配できなかったり…天気に大きく左右されます。長雨が続いたり、日照りが続いたり…全ての条件が理想通りの年などは稀です。これまでずっと「失敗をしたことがない」志釜さんですがもちろん、いつも天が味方をしてくれたわけではありません。
 志釜さんはすいかを二通りの栽培方法で育てています。一つは昔ながら手間がかかり収量も少ないけれど寒さに強い方法。こちらは1本の蔓に2個の実しかつけません。もう一つの方法は手間も少なく、2〜3倍の収量になりますが、寒さに弱いという弱点があります。この二つでバランスをとっています。それでも20年は試行錯誤、安定して来たのはここ5年ほどだそうです。なかなか、根気が必要です。
 更に志釜さんの場合、すいかの次には梨、りんご、お米が待っています。一つの作物だけでは、天候や相場に左右されてしまうので複数の作物を作ることで農業経営の安定に繋げています。

 「自分の作り方が特別ということではない。親世代はみんな知っているから。あとは、やるかやらないか」と、志釜さんは軽やかです。最近、近所で就農した若手との飲み会では色々な話をするそうです。近年減少傾向の「飲みニケーション」も、ここでは健在。気さくな志釜さんになら自分の親には聞けないこと、話せないことも相談でき、社会のアレコレを教えてくれる兄貴として、とても頼もしい存在のはずです。
長井市
長井市は山形県南部に位置し緑豊かな山系に囲まれ、中央部に野川、南部に最上川、そして白川が合流する「水」の豊かな土地です。最近では、米だけでなく露地やハウスの野菜、果実の栽培を手がける生産者さんが増えています。