

福島県いわき市/あじま農園 安島淳司さん
実家は兼業農家で、父が会社員をしながらコメを作っていたので農業は身近でした。父は慣行栽培をしていましたが、次第に有機農業に関心を持ち始めました。有機栽培を始めるとどんどんのめり込み、最終的には早期退職して農業に専念。農地も拡大し、一人では手に余るほどになったため私に「一緒にやらないか」と声がかかりました。当時、私は郵便局に勤務16年目でしたが、有機農業に奮闘する父を間近に見て、やりがいのある仕事だと感じていたので、すんなり退職して2019年に就農しました。
近年、このあたりでは後継者不足からリタイヤする農家が多く、父はそれらの農地を引き継いで規模を拡大しました。農機具など新たに購入する必要がありましたが、その都度、相談して、福島県の補助事業を活用してきました。p>
有機農業のハードルは、草との闘いと苗づくりの難しさです。特に除草は試行錯誤の連続で、父は数えきれないほどの方法を実践し努力を重ねました。熱心に本や文献を読んで知識を蓄え、地元の有機農家グループに入って勉強会や研修で学びを深め、自分の農業に活かしてきました。有機農家としてある程度のベースができたところに、私が就農したという形です。
就農後の取り組み最初から田んぼの一部を任されましたが、1年目はとにかく必死であっという間でした。現在4年目ですが、まだ学ぶことは多いです。化学農薬や化学肥料に頼らず収量を上げ、味を良くするには、稲が持つポテンシャルをいかに引き出せるかがカギとなります。春先の田起こしから、育苗、生育管理、草対策といった一つ一つのプロセスを工夫して、結果につながると達成感があります。食味にはこだわっていて「米・食味分析鑑定コンクール」では、父だけの時代も含め特別優秀賞を2回受賞しました。
現在は約20haの田んぼにコシヒカリと酒米の山田錦を中心に6品種を栽培し、そのうち4haが有機栽培です。他に化学農薬・化学肥料不使用のニンジン、エゴマも作っています。父は販路開拓には苦労していたようですが、ウェブサイトを開設し直接購入してくれる方ができたことと、地元の酒蔵と酒米の全量買い取り契約を結んだことで比較的安定しました。3年前から地元のJAが有機栽培米の買い取りを始めたこともありがたいです。
有機農業は手間がかかります。それでも続ける理由を、最初は「安全・安心で高く売れるから」と考えていました。しかし、4年間の実践を通してたどり着いた思いは「農業の持続性と環境保全」。有機農業の目的はこれに尽きます。私は周辺で、長年化学農薬や化学肥料を使ったことで肥沃性、土の地力が衰え、作物の病気がまん延した農地を見てきました。農地が荒れ、耕作を放棄し、後継者も新規就農者も来なくなるという悪循環を変えたい。ふるさとの農業を元気づけたいし、豊かで健全な土壌を取り戻したいです。当園では慣行栽培も農薬をできるだけ使わないよう工夫しています。
やりがいを感じるのは、ありきたりかもしれませんが「おいしい」と言われることですね。地元のスポーツ少年団が田植え・稲刈り体験に来て試食をすると本当においしそうに食べてくれる。うちのニンジンはニンジン嫌いの子も喜んで食べてくれるので、励みになります。
これからの展望薬はもちろん有機質を含めた肥料も一切使わない「自然農法」を究めたいというのが今の目標です。そうすることで土の中の微生物がさらに活発に活動し、豊かな土壌が生まれ、持続可能な農業を根付かせることができると思います。実際に今、少しずつ転換を図っています。
もう一つ、現在製菓専門学校で学ぶ長女と一緒に、将来6次産業を手がける夢があります。規格外ニンジンの活用や、コメ粉を使ったグルテンフリーの焼き菓子などアイデアを温めています。
2020 年に有機農家仲間6人で「農Limit」というグループを結成しました。勉強会・研修会の実施や人材育成を目的に立ち上げ、施設設置費用や研修費は福島県の補助を受けることができました。メンバーが非常に勉強熱心で、切磋琢磨し合っています。同じ作物を育てるにも、圃場の条件やその年の気候等によってやることが異なるのが有機農業。常に感覚を研ぎ澄ませ、観察し、考え、対応する必要があって、だからこそ奥深く、面白い。情報や知識を共有しながらともに成長できる仲間の存在は心強いです。今後は新規就農希望者の育成も実家は兼業農家で、父が会社員をしながらコメを作っていた 積極的に手掛けたいと思っています。
「終わりなき追求」こそが魅力!
農作物は一年に一度しか作れません。その年の生育や気象、田んぼや畑の状況などはすべて大切なデータとなり、次へ生かします。しかし翌年はまた気温や雨の降り方が変わってたりして同じようにはできない。化学農薬や化学肥料に頼らない有機農業は環境の影響を受けやすく、毎日問題と向き合って考えるんです。有機に挑戦するのはそういう「終わりのない追求」にハマる人。面白いし、ワクワクしますよ。