背景と課題
急な残業や休日返上は当たり前といった労働環境。生産計画などの改善に取り組む。

山形県最上郡でかまくらやさい(雪中野菜)などを生産している、株式会社エヌシップ代表取締役長倉直人さんは、2010年就農、2012年法人設立。就農前に会計事務所に勤めていた経験から、設立当初から15分単位で残業手当を支給していました。当初は「仕事があるだけ全部やる」という姿勢で取り組みました。常に仕事が待っているのはいいことだと思っていたし、従来農家はそれが当たり前で、従業員にとっても働いた分だけ収入が上がるのは喜ばれると考えていたからです。そのため休日や労働時間は安定せず、急な残業や休日返上はよくありました。後から振り返れば、これが課題でした。また生産計画など確立できていない面や経験値が低いことも、労働時間が延びる原因でした。
実際に行った対策
作業量を可視化し、適切な作業量を基準に生産計画を立案。1 人当たりの仕事量の平準化を目指した
従業員から「休日が少ない」「仕事時間が長くてキツい」という声が上がるようになりました。仕事を一緒にするときや、飲み会などで耳にすることがあり、ここで初めて、従業員は決まった休日や労働時間を求めていることに気づきました。そこで、1日8時間、月25日を守れる労働環境を目指すことを決心しました。

まず取り組んだのは作業量の可視化です。作物ごとに面積あたりの作業時間を割り出し、人数と就業日数・時間から、何をどれくらい栽培するかを決めるという方法を取りました。作付けした量に合わせて働くのではなく、適正な作業量に合わせて作る野菜の種類と量を決めるように改めました。仕事の総量は前年までの日誌の実績から算出しました。農機の導入、作付け場所の変更等、条件が変わればデータも更新し、常に最新の状態で計算できるように工夫しています。
繁忙期と農閑期で一人あたりの仕事量に差が出ないよう、一年を通してなるべく収穫のピークを分散させ、どうしても仕事の多い夏場は季節従業員を雇用。2016年からは豪雪を生かして雪の下で貯蔵し甘みを増す「かまくらやさい」のブランド化を実現し、野菜のとれない冬場の仕事も確保しました。業務の性質上、天候や生育状況によって多少のイレギュラーはありますが、おおむね順調に機能しています。

実際の業務では、毎朝ミーティングで当日の仕事を確認してから作業開始しています。以前はその日の仕事のゴールが見えづらい状況で働いていましたが、一日の仕事量が明確になりました。8時間で作業を終えることが、やり切ったという達成感と翌日への意欲につながります。また各々に担当の作物を任せることで、野菜作りへの興味関心を高める効果を狙いました。
休日は申請制。1週間前までに共通のカレンダーに記入し、同時に3人以上は休まないよう互いに調整してもらっています。2018年からは有給休暇制度を導入しました。前年の業績が振るわない中で不安はありましたが、一般企業で当たり前に行われていることを実行すべきと考えて決断しました。
取り組みの結果
スケジュール化により、生産性が向上

年初に年間の栽培スケジュールと労働時間を決めることで、従業員はいつ何をするのかわかり、業務の効率化やモチベーションアップにつながっています。作物ごとの収穫期も分かるため、種まきなどが遅れないよう積極的に取り組みます。農業は手作業が多く、従業員1人のモチベーションが全体に大きく影響。働きやすい環境を整えたり、有給休暇制度を取り入れたことで、事業収益は確実に上がりました。全体の労働時間は減り、毎年収量は増加しています。従業員の意欲が上がったことで、時間あたりの仕事量が増えた結果だと考えています。
その後(会社・従業員の声)
現場で全体を取りまとめている取締役の堀健次さんは、ほとんど残業がなくなり、休日の確保が徹底してから、従業員のモチベーションが上がったと話します。責任感が生まれ、栽培法や扱う品種に関して自ら勉強し提案。「やらされる仕事」から「進んでやる仕事」に意識が転換し、仕事を好きになっていることを実感できるそう。
長倉さんは今後、全国の農事組合法人とのネットワーク作りをしたいと話します。全国の同世代と共に未来を考え、若い世代の農業者を増やしたい。長倉さんはこれからもさらに「若者がやりたくなる農業」を目指します。

