背景と課題
経営改善のため農家を13 代目で法人化。障害者雇用と農園の成長の両方を叶えたい。
400年続く専業農家の13代目となった鈴木厚志さんは、経営に伸び悩んだ農園を平成16年に法人化し、社員やパートの雇用、経営方針を見直し状況改善に取り組みました。
京丸園では、障害者を1年に1人ずつ新たに雇用しています。長期的な雇用を考えた場合に、賃金アップや従業員が個々にスキルアップできる配置など、環境を整えていきたいところではありますが、ある一定のラインで成長がとまることがあります。そういった場合に、彼らの成長を後押しすることはとても難しい課題でした。一方、農園は規模や売り上げを伸ばしていかなくてはなりません。彼らを雇用し続けながら農園に成長と利益を生み出すにはどうしたらよいか…この課題に対して鈴木さんは障害者の1人1人の特性に着目し、働きやすい環境づくりに取り組みました。

実際に行った対策
障害者雇用の継続と定着の取り組み。彼らと共に成長していく農園のあり方とは。
鈴木さんは障害者に接するにあたり、「コンストラクティブ・リビング」※1教育法の資格を取得しました。そしてできる仕事を抽出し、彼らの能力が最大限に生かせる職場作りをしました。まずは、農園を3部門に分業化しました。水耕栽培をする水耕部、コシヒカリの栽培をする土耕部、障害者手帳を持つ人たちが所属する心耕部。丁寧に指導を受けながら検品作業・洗浄・定植・収穫などの細かな作業を担当するのが心耕部です。
障害者の採用にあたり3つの条件を設けました。①本人の働く意欲、②毎日決められた時間の出退勤及び③協調性です。決められた時間に出退勤できることは本人のやる気の指標になり、時間の感覚や選択の認識などの見極めにもなり、大きな決定要因となります。半年の訓練期間に特徴を見極め、精神保健福祉士や外部の福祉の専門家の意見を参考にしながら決定します。
その後、1 人1 人の特性に合う仕事を提供します。例えば、こだわりの強い人には検品作業、繰り返しが得意な人は決められた個数を輪ゴムで留める作業などをします。彼らは決められたことを確実に行ないます。手を洗うことでさえ時間を正しく守る姿は、衛生管理やJGAPにも合致できます。能力を生かし適材適所に配属することで、安心して仕事に取り組んでもらえるのです。

一方農園はビジネスである以上成長しなくてはなりません。また賃金制度が能力と比例する体系のため賃金を上げていくためには能力向上が求められます。彼らの「できない」という課題を「農園が解決」することで、その先にお互いの成長があることに気づきます。取り組んだのは、効率化や機械化です。トレーを洗う機械をメーカーと共同開発したことで指示が明確となり、誰もが効率よく同じ精度で作業ができるようになりました。
雇用の継続と定着の取り組みとしてIoT を活用し始めました。「ラズパイ」※2というシステムを利用し、従業員は作業量が瞬時に数値化され自分の仕事量を確認できるシステムを作りました。達成感を味わえる仕掛けや作業を楽しくする工夫、モチベーションを上げるための研究もはじめました。このデータの蓄積で能力を測る指標がつくりだされ、農園の生産性も確認できるようにしたいと思っています。
※1Constructive Living( コンストラクティブ・リビング):日本語に訳すと「建設的な生き方」。日本の代表的な心理療法である内観療法と森田療法を活用した教育法
※2Raspberry Pi(ラズベリー パイ):日本語の略称はラズパイ。教育で利用されることを想定して制作されたシングルボードコンピュータだが、趣味や業務(試作品の開発)等としても用いられるようになっている。
取り組みの結果
「ユニバーサル農業」という発想の確立
障害者雇用を契機に分業化、機械化、さらにIoTの導入などに取り組み農園は飛躍的に進化しました。また従業員が障害者を支えることで、優しさの風土が生まれそれが社風にもなりました。特に障害者雇用は継続と定着が難しいとされますが、現在、障害者は25人、最も長く働く人は20年になります。彼らが前向きに働ける農園は、高齢者・女性・心の病気を持つ人等、多様な人達が活躍することができる職場になります。

京丸園が展開するアグリビジネスを前提にした農業と福祉の融合「ユニバーサル農業」という発想は社会的に評価され、注目を集めるようになりました。
その後(会社・従業員の声)
ユニバーサル農業によって、農業は多様な人々が活躍できる場となりました。「これからの農業は生産業にとどまらず多面的機能を活かしたサービスを提供する産業になります」と鈴木さんは言います。美味しいを越え、さらに人が喜ぶ価値をのせていきたいとのこと。京丸園は障害者の雇用と彼らから与えられる課題により農園が成長しました。そのベースにあるのは、人を笑顔にしたいという思いです。これからもよりよい農園と農業界を目指して挑戦を繰り返し、笑顔を創造し続けていきます。

