

熊本市北区で、なすを中心に小玉スイカ、白菜などを栽培している木山勇志さんは、地元のなす生産者と共に任意組合を組織した後、組合メンバーの農産物を販売するため、株式会社きよみずを設立しました。
株式会社きよみずでは、なすの価格を組合メンバーで話し合い、シーズンごとに色や形状・重さや大きさなど、すべての規格の値決めを行います。「価格が完全に決まっていることで、組合メンバーは生産に集中することができ、年々、なすの栽培技術が向上し、安定した出荷が可能になってきています。みんなが頑張って生産したものは、全量売るのが会社のスタイル」と木山さん。
その後、元取引先だった会社の一部事業を引き受け、事業名をそのまま社名に、「サプライジングファーマー株式会社」と変更しました。事業を引き受けたことで、新たな販売先も増え、販売力の向上にもつながっています。さらに、組合メンバーの技術向上が進み、ベストなタイミングでの販路拡大など、木山さんは、経営を着実に次のステップへ進めています。
そんな木山さんが、経営を考えるベースとなったのは、くまもと農業経営塾での講義や、経営塾で出会った人とのつながりでした。
「経営塾に入ったから、今がある」と、話す木山さんは、個人事業の頃に、5期くまもと農業経営塾に参加し、翌年、株式会社きよみずを立ち上げ時に、6期に参加。そして7期ではTA(講師)として参加しました。経営塾に参加した一番の収穫は、付き合う人が増えたことで、視点が増えたこと。多くの選択肢から、自分が納得するものを選ぶ習慣が出来たそうです。
「5年後を見据えた事業計画の数字は、2年で達成し、売り上げを伸ばすことができました。それは、自分が周りに恵まれていたから。」
これから農業をはじめようとする人へ
「経営塾に入って、大きく利益を出した農業経営を知ることも大切。でも、自分がそうなりたいと考えたとき、一足飛びに行くことはできないので、中には心折れていく人もいる。人間関係で目標達成までの時間を加速させることは出来ても、飛ばすことはできない。農業はコツコツと積み上げるものと伝えたい」
木山さんは、卒塾後、くまもとFTC(Farm to Table Community)という、組織の代表として活動しています。くまもとFTCについて尋ねると、「FTCはひとつの大きな箱、中には人がいて、自由に出入りができる。1人の力では踏み出せない問題を、1歩踏み出せる場所にしたいと考えています。」と教えてくれました。
例えば、「こんなことがしたい」と言うと、それに対して、数人がいいね!と言ってくれる。また、考え方に共通するものがあれば、さらに自分の経営を強くすることにつながる。経営を大きくする人もいれば、尖った方向に向く人もいる、それぞれの向かうべき方向が異なり、全員が同じ方向は見ていないそうです。
現在、正会員とネットワーク会員の2段階。正会員は会費を支払い、経営を良くするために、活動したいという意思を持った人。ネットワーク会員には、情報を無料で提供しています。情報を知り、共同購入や共同販売に加わることができます。組織内で、労働力の共有化を図るということも起きています。これは、お互いに信頼関係が、必要なことだと木山さんはいいます。
くまもとFTCでは、「FTC堆肥」というチャレンジをはじめたそうです。企業から出た残渣(ざんさ)を使って、堆肥として利用する取り組みです。現在、300トンの堆肥を、菊池のごぼうと玉ねぎを育てるメンバーで試験しています。そうした活動とは別に、地域の農業高校の先生と話す機会を持ち、生徒さんに、この地域の農業に加わってもらえるように、求人活動も行っています。
いろいろな活動をしている木山さんは、3年前から、新たに丸ナスにも取り組んでいます。「とろとろ炒めなす」は、加熱することでトロトロになり、アクがうま味となります。「クリーミーなす」は皮が薄くてなめらかな味わいのある2品種。最初は、販売に苦労しましたが、今では、生産が追い付かないくらいになっています。
野菜の美味しさを引き出すだけではなく、付加価値をつけるアイディアや、共同により流通を整えることをはじめた木山さんは、これからも新しいチャレンジをしていきます。