若い頃は農業も住んでいる地域の事も、父親のことも嫌いだったと話す鎌部さん。東京で仕事をした後にシングルマザーとして地元にUターン。戻って来た当初は地域の風当たりも強く、やりにくさを感じたこともありました。そんな中、地域の土地を守って、耕作放棄地を作らないように、他の農家の土地も耕し続けている父親の姿を見て、自身も地域の土地を守り、地域の人たちの信頼を受けられる人間になっていきたいと、気持ちが変わっていきました。そして、外に出たからこそ分かる、田舎の生活の良さ、農作業をすることの気持ち良さ、楽しさを感じ、農業への興味が湧いてきました。ただ、娘を心配しての事なのか、頼りなく思うからなのか、就農して20年たった今も「かまべファーム」を任せてくれていません。
「かまべファーム」をそのまま引き継ぐという形ではありませんが、父親から引き継いだ農業を活かして、福祉に役立てていきたいと株式会社心音を起業しました。シングルマザーや引きこもり、非行などの地域の課題に対して、農業を通して1人1人の心の音を聞きながら、解決に導きたいと考えたからです。例えば、雇用に繋がりにくい人たちがいれば、就労に繋がるきっかけ作りの手伝いがしたい。そんな想いをベースに、就労に向けたプログラムを作り、少しずつトレーニングを重ね、いずれは自社で雇用していきたいと考えています。農業と福祉の両方に携わってきた鎌部さんだからこそ出来る農業の形です。利益を追求するだけではない農業。農業の自由さ、面白さを存分に活かして、社会貢献の農業の新しい形を作ろうとしています。畑でゆっくりと過ごすのも良いし、簡単な作業を気が向いた時にしても良い、そんな誰もが過ごしやすい「わいわいがやがや」した楽しい、居場所づくりを目指しています。
仲間たちとチームとなり、就労支援プログラムの作成や、発育障害の人の受入れに関する一連の流れを準備してきました。かまべファームでの農作業をしながら、大好きな草刈りや農作業の達成感も楽しみつつ、お米を育て、農業と福祉の新しい形の会社として「株式会社心音」を2020年春に設立しました。発達障害の人が、例えば1週間に1回でも良いので来てくれるようになって、その回数が段々と増えて就労意欲が湧いてくるようにしていきたいと考えています。そして、徐々に、対人関係や言葉使いなどの社会性が身に付き、自社や地元の企業、農家への就労に繋がっていくような、農業の学校のような場所を目指しています。
鎌部さんの農業と福祉に対する思いに共感してくれた大手スーパーが株式会社心音を直営農場として契約を結んでくれました。今後は、1haの耕作放棄地を借り受けて、少しづつ面積を増やしながら、地元の特産物である京野菜や、クレソン、チコリ等の珍しい野菜を中心に栽培していく予定です。今は鎌部さんと息子さんの二人だけの会社ですが、近所のお年寄りや、子育て中で長い時間は働きにくいお母さんたちをパートで雇用し、いずれは社員にしていく予定です。出荷先が確保されている安心感で、従業員の雇用も行うことができます。
父親が地域の兼業農家の農地を荒れないように耕して、耕作放棄地を作らないように地域の土地を長い間守ってきました。長年地域の土地を守ってきた父親に感謝している農家さんは多く、鎌部さんが就農した際にも周りの人達に沢山助けてもらいました。農業の事はもちろん、頑固なお父さんとの間に入って話しをしてくれたこともあります。新事業を立ち上げて株式会社心音を始める際にも、新規就農の場合には難しい、農地を借り受けることもスムーズにすることが出来ました。これも先代が地域の農家の信頼を受けていたからです。地域の年配農家とも田んぼのあぜで、缶コーヒーを飲みながらお喋りして、古い農家も新しい農家もみんなで一緒に農業、地域を盛り上げて行けるような橋渡しとなっていきたいと、鎌部さんは考えています。
住所 | 京都府綾部市五津合町ユリの下4 |
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代表者名 | 鎌部真由美 |
作目等 | 水稲、大豆、京野菜など |
従業員 |