八幡平市では30年以上前より、日本で初めて商業運転を開始した松川地熱発電所の温水を利用したハウス(熱水ハウス)での農作物の栽培が行われていました。しかし昨今は高齢化による離農や施設の老朽化により多くのハウスが未活用の状態が続いており、かつては最先端技術の象徴であった高石野施設野菜生産組合もまさに同じ状況に陥っていました。「この場所を何とか復興したい」と切に願う八幡平市の田村市長とIoTを専門とする兒玉さんが東北で開催された展示会をきっかけに出会い、意気投合します。将来への地域の課題を聞いた兒玉さんは「まさに、今考えているIoTの仕組みこそがこの問題に活かせるのではないか」と感じます。さっそく現地を訪れますが、ビニールがはがれ落ち、フレームだけ残ったハウス群が蕭然と立ち並ぶ光景を目の当たりにし「これは今こそ誰かが何とかしないと」かつて全国でIoT事業開発を手掛けた経験を活かし、今こそ東北の力になりたいと、熱い想いで事業に乗り出しました。
IoTというとパソコンやスマートフォンが必須、若い人が活躍するイメージが強い中、経歴、年齢などを問わず、高齢者や機械が苦手な方など「誰でもできる農業」を目指します。「特定の人しか出来ないのでは意味を成さない」と、現場へのIoT導入の前提として、文字通りにあらゆる人に対応できることを考えて設計しています。実際に、自社のハウスでは全員が新規就農者、IT未経験の管理者から高齢者の方まで幅広い人材がIoTを活用したスマート農業を行い、成果を上げています。
八幡平スマートファームで利用しているハウス内の設備構築をはじめ、栽培管理、販路開拓、出荷は、農業で地方創生を目指す複数のパートナー企業に協力をしてもらっています。各業界における最先端の知見を有する多くの企業へ、このプロジェクトに参画してもらうように働きかけました。その結果、最速で最高の結果を出すプロジェクトの成功を目指すチームができたのです。兒玉さんの直感と決断力が光ります。「誰もができる農業」「農業の新しいカタチ」の実現に向けてプロジェクトが大きく前進し始めました。
50棟ものハウスの活用、さらに事業継続のためには安定した収益をあげることが必要です。「高収益」をキーワードに、栽培作物を選定、設備の開発を行いました。ハウスで栽培する作物には、過去に栽培していたものや地元の特産品ではなく、敢えて温暖な地域で栽培されている「バジル」を選択、寒冷地の東北、雪深い八幡平で栽培します。生育面を増やす縦型水耕栽培装置を導入し、ハウス1棟あたり2.5~3t(通常の露地栽培の約108倍/㎡)という「圧倒的な収量」を実現しています。「雪国でバジル」という意外性だけではなく東北からの新しい流通を生み出すことで新たな市場の獲得につながり、なおかつ圧倒的な収穫量による安定した供給は八幡平産バジルのブランディングにとても重要な役割を果たしています。
ハウスで栽培した作物は「ゆけむりいちご」や「八幡平産温泉バジル」と名づけられ、既に出荷も始まっています。現在のスタッフは全員が農業未経験者。5名程のスタッフで管理・出荷までを行い、栽培された作物は全国へ通年安定出荷が可能です。人の代わりにカメラが24時間体制で作物を見守り、空調管理、肥培などを自動制御システムで実施することで、労働生産性の向上、高単価作物を大量生産する「誰でもできる農業」を実現しています。さっそく、地元からは農福連携のモデルとしての期待もされています。こうして2年間の実証実験から、本格的に事業を拡大することが確定しました。今後は、観光体験農園や新規就農希望者へのトレーニング施設としての活用も予定しており、八幡平市と共に、さらなるIoT農業の振興を推進していきます。
地域ぐるみのプロジェクトは、そこに暮らす地域の方々の理解・協力が不可欠でした。地熱発電の熱源である温泉の利用権や既存の生産組合(高石野施設野菜生産組合)を引継ぎ、生産性の高い事業とすべくIoTを導入するには、自治体の許可も必要です。この町の出身ではない兒玉さんが円滑に事業を進められたことは「市長はじめ、市役所の皆様の深い理解と大きな協力のおかげ」と振り返ります。
また、地域の方々が「自分達も新しいカタチの農業に挑戦しよう」という前向きな気持ちを持っていたことも恵まれた環境だったと言います。官と民が一体となり地域の宝である自然エネルギーとIoTの技術力の結集で八幡平市に魅力ある事業を起ちあげようとみんなで取組みを進めた結果「IoT次世代施設園芸事業」を実現することができたのです。そもそも多くの人にとって、イメージしにくい全く新しい分野。市の未来を託される重みを兒玉さんは真摯に受け止め、エネルギーに変えています。IoTというとロボット中心の冷たいイメージがありますが、兒玉さんは出会いとご縁を大切に、距離を感じさせない熱量で周りを巻き込み、共に取り組みます。「IoTは初期費用の高さが大きな課題です。新しい分野で、ビジネスとして成功させさらに全国にこのスマート農業を展開することが、今の自分の役割と自負しています」現状に満足せず、今後も加速して東北のIoT農業を牽引していきます。
住所 | 岩手県八幡平市大更第35地割62番地 八幡平市役所西根総合支所3階 |
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代表者名 | 兒玉則浩 |
作目等 | IoT農業事業 |
従業員 | |
URL | http://smartfarm.co.jp/ |