代表の高橋さんは、もともと、障がいや何らかの事情で仕事を見つけることが難しい人の就労支援をするNPOの理事長をしており、スクールソーシャルワーカーとしても活躍をしています。あるとき知人から「余っている畑があるから使わない?」と声をかけられ、試しに就労支援施設の利用者も誘い、農作業をしてみることにしました。すると、普段心に不調を訴えている人が明るくなり元気になるような効果を感じました。そして、何度か畑を訪れ農作業をするうちに、その効果に確信を得たといいます。そうした効果を最大限に活かせるように、「農を通して自分らしい暮らしをつくる人を増やす」ことを目指し、2016年イシノマキ・ファームを設立しました。
高橋さんをはじめスタッフも、農業に関しては全くの素人でした。就労支援のプロである職員も農作業では悪戦苦闘することばかり。それでも、農作業から得られる効果に気づき、素人ながらも農業に取り組んでいる姿を見た地域の農家さんたちが、続々と手伝いに出てきてくれるようになりました。ソーシャルファームというと、社会的弱者のための法人という福祉色を強く感じさせてしまう面があります。しかし、実際はこれまで活躍できる職場が見つからなかった利用者の中から、農作業で思いがけず才能を発揮する人がうまれ、より良い循環となっています。2017年には古民家をリノベーションした宿泊施設「Village AOYA」をオープン。「農」を通して、リフレッシュをしたり、自分らしい暮らしを見つけるきっかけづくりになる、石巻市内だけでなく、首都圏をはじめ地域外からも人が集う拠点ができました。
2017年には当時仙台にあったホップジャパン(現在は福島県田村市)の方に誘われ、ビールの原料となるホップの栽培を始めました。初めて育てたホップは、地域内外の方々の協力も得て無事収穫、「巻風エール」という名のビールが完成します。2018年春には、石巻市の委託を受け、就農希望者をサポートする「石巻市農業担い手センター」を開設しました。どうしても出来ないことは人の力を借り、仲間の輪を着々と広げるイシノマキ・ファームの活動。農業の素人だったからこそ、新規就農希望者に寄り添うことや、日ごろ食事の際には意識できない「その向こう側」にいる生産者の存在を伝える、といった役割が果たせています。
就労支援のNPOスタッフ他数名で始まったイシノマキ・ファーム。設立当初は4名程度だったスタッフも、2019年には首都圏から20~30代の若者が3人移住して参画し8名になりました。栽培作物も多岐に渡ります。農業体験に来た人にも作業しやすい作物、地元飲食店のニーズに対応した作物、石巻市が県2位の生産量を誇る「せり」、3期目を終えたホップなど、通年で10種類以上を手掛けています。拠点は農泊可能な「Village AOYA」に加えて、就農希望者向けシェアハウスを市内2か所で運営するなど、事業の幅を広げています。
イシノマキ・ファームを訪れる人は様々です。スタッフも半農半Xの暮らしをしたい人、ホップ製品を創りたい人など、各々が「やりたい」を持って働いています。事業も就農支援、地域交流促進、農村留学プログラムの実施、ホップの6次化など多岐に渡ります。農業法人として昨年ようやく認可を受けましたが、農作物による収益はまだまだ僅か。しかし、「農」と「暮らし」の接点となる多様な機会を提供することで、イシノマキ・ファームに関わる人が身近なところから、全国各地へと、広がりを見せています。「農業の課題は多いものの、可能性も多いので、農業を通して自分らしい暮らし方・生き方を模索し、創造する仲間を石巻から増やしていきたい」高橋さんの挑戦は続きます。
住所 | 宮城県石巻市北上町女川泉沢13 |
---|---|
代表者名 | 高橋由佳 |
作目等 | 野菜やビールの素材となるホップの栽培 |
従業員 | |
URL | https://www.ishinomaki-farm.com/ |
新農業人スタートのメールマガジン!イベント情報などさまざまな情報をお届けします。