東京にある人材系の会社で営業・マーケティングの仕事をしていた福井さんは、もともと野菜が好きだったこともあり、転職を考えた際に農業が候補に上がりました。同時に農業を取り巻く現実を見つめ、日本の食料自給率の低下が懸念される今だからこそ、「30代の若手として新規参入すれば、社会課題の解決に貢献できるのではないか」と考えました。まずは農家へ飛び込んで農業を学びながら、リサーチを続けるうちにあることに気づきます。それは、農家さんの多くが「カン」に頼って農業をしていることでした。データをもとに数値化した農業ができれば課題解決にも繋がるはず・・起業の背景には、そんな思いもありました。
起業当時は毎月の売り上げを立てるのに必死で、ゼロから立ち上げることの難しさに直面していたので、大きな経営目標よりも働きやすい環境作りを意識してきました。ベビーリーフの生産においては、データの蓄積に力を入れ、販路の拡大も慎重に進めてきました。できるだけ正確な販売見込みが立てられるよう、必要以上に中間業者を介さずなるべくダイレクトに顧客に届けたり、逆に網羅しきれない個人経営の店舗向けにはあえて仲卸業者や商社を介して販売したりと、販路を戦略的に開拓してきました。単身で築いてきた販路は、スーパーマーケットや百貨店はもちろん、都心部および郊外の飲食店から結婚式場まで様々。取引先によって異なる出荷量の波をうまく利用し、極力ロスのない生産を目指しています。
ベビーリーフは季節により変わりますが、全部で14の品目を栽培し、品目ごとの栽培状況に応じて組み合わせてパッケージしています。1つの品目が天候や病気などの影響で出荷できなくなっても、他の品目でカバーできる仕組みです。また、栽培期間が短いこともベビーリーフの大きな特徴です。早いサイクルで流通させることで生産の見込みを立てやすいことに目をつけました。農業界に特別なビジネスモデルはありませんが、自動車メーカーなど一般企業のやり方は常に参考にしています。「農業」なら・・と置き換えてイメージすることで応用できるのです。
10年前の創業時は従業員が2人で休日を設けることもできませんでしたが、当初より売上が2倍以上に伸びた今では、正社員2人とパート従業員7人に増えました。働きやすい環境は良好な人間関係が大切だと考える福井さん。女性ばかりの職場であり、手作業がほとんどだからこそ、仕事中は手を動かしながらおしゃべりも楽しんでもらっています。人材系の仕事をしてきた経験から、円滑なコミュニケーションを図り、離職率を抑えることの重要性がわかるのです。
売れ残ってロスが出てもダメ、かといって欠品があってもダメ。生産量と販売量をイコールにすることを常に目指していますが、なかなか難しいのが現状です。そのためには、これまで積み重ねてきた生産・販売データ、そして長く勤めてくれる従業員の存在は欠かせません。少しずつ従業員が増えてきた今、顧客の突発的なニーズにも対応できるため、取引先からの信頼が高まったことを実感しています。
「農業の世界は、夏は暑く冬は寒いのが大変ですけど・・働きやすい会社だと思います。」と笑顔で話すのは従業員の大島有希さん。
基本的には日曜休業のシフト制で、出荷量に合わせて日々の作業時間は多少変わります。「子どもの体調不良などで休むときも、柔軟に対応してもらえるのがありがたいですね。」グリングリンでは急な事態にも臨機応変に動けるよう、日頃から栽培・収穫・出荷など従業員の誰もがすべての工程に触れる仕組みをつくっています。
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