元は都内で映像会社の編集をしていた竹川麻衣子さん。デスクワーク中心の生活で季節感がなく、体調も良くなかった竹川さんは自身の生き方に疑問を持ち始め、食べ物で身体を変えていきたいと考えます。そこで有機野菜の定期便を試してみることにしました。野菜が生きていたことがわかる!消費者として麻痺していた感覚が呼び戻されます。丁寧に梱包され届いた野菜は今までスーパーで購入していたものと違い、誰が作ったものかわかるもの、それは親戚から小包が届いたような感覚でした。旬の野菜が届くことで季節を感じられるようになり、お料理も、「これを作るためにこれを買う」から「これが届いたからこれを作ろう」に変わりました。体の調子も良くなり、工夫して作る料理のおかげで食卓が楽しくなりました。
最初は自身の健康のことを考えて始めた定期便。環境に負荷をかけずに野菜を育てる農家さんを応援したい、という気持ちもあったそうです。そんな野菜生活を続けるうちに実際に体験して見たいと思い、生産者の農場へ宿泊農業体験に参加。身体を動かせば疲れる、お腹がすく、眠れる。当たり前の体験をし「生きる」ということがリアルにイメージできるようになり、就農を決意しました。
夫婦で研修生として農業を始めたのが2009年。栃木県茂木町にて研修の後3年間営農、その後現在の千葉県長生郡に移住します。移住したきっかけは二つ。研修先の栃木は寒さが厳しく、多品目の生産が難しかったこと。そんな時、災害による土砂崩れの影響や古民家の老朽化なども理由に移転を考え始めます。温暖で平坦な土地に農場を構えたいという希望があり探したところ、親戚の家が空き家になるということで現在の土地に移転しました。
お客様とお互いの顔が見える取引をしたいという思いで始めた野菜の直売は当初20軒程度でした。それからは消費者の声を直接聴き、顔をイメージしながら試行錯誤。使いやすい野菜に少し珍しい野菜を入れ、お便りを同封するなど一つひとつ丁寧に梱包し、今では120軒程のお客様にお野菜を届けています。品種の選択はもちろんのこと、この土地の気候や土の質などを研究し、環境に合わせ手間をかけて改良を重ねています。現在2.5haの農場に加え、平飼いの鶏150羽で卵の生産を営んでいます。この土地で開園した当初とほぼ変わらず今後も現在の規模を維持し、生産者と消費者「お互いの顔が見える」農業を貫いて行きたいと考えています。
さいのね畑では、1年に3名程度の研修生を受け入れています。1年間で季節を一通り経験し、卒業となります。卒業生のほとんどがそれぞれに営農の地を決め、独立します。研修制度がある農園は各地に多くあります。農作業だけを学ぶというところがほとんどですが、さいのね畑では、経営や設備、出荷のことまで全て研修生に学ばせ、実際に独立したときに困らないよう厳しく指導しています。夫婦二人でけでは自由がきかない、そんなときに研修生は頼れる存在にもなっています。
修了した卒業生たちともとても良い関係が築けています。近くにいる卒業生たちとは度々交流、独立した卒業生たちから逆に教えられることもあるそうです。卒業生同士が交流できるようなネットワークもでき、営農に関する情報交換などもできるような仕組みを作っています。2020年12月でさいのね畑は10周年を迎えます。そこで巣立っていった卒業生たちみんなが集まれるような楽しい企画を考えているそうです。
「都会にいる人に自分が感じたことを伝えたい」これが最初の思いでした。まず、自分が食べたいものを届けたい。その思いは10年営農を続けている今でも変わりません。日本の農業人口が減少、特に有機栽培営農者はごくわずかです。無くなってはならない農業。就農者を増やすためにもっと広めていきたい。研修制度や販売を通じて、営農だけでなく自身たちの生き方を共有し、伝達していきたいと考えています。そして得意分野を活かして楽しむこと。
学生の頃美術を学び映像の会社に勤務してきた経験から、宅配便にお便りを作ったり、彩よく梱包をするなど、自身の伝えたいことを表現しながら野菜を届けています。ときには、イベントの得意な研修生にイベントを企画してもらったり、教えるのが得意なご主人に研修制の指導をお任せしたり、それぞれの得意分野を活かしながら営農しています。野菜を手にするお客様はもちろんのこと、研修生、竹川さんご夫婦にも日々楽しみが増えていくような営農を目指しています。
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