只野さんの父親は、新しいことが好き、何でも挑戦する人で、現在の農業ブームが起きる前からいち早く「農業で稼げることを証明する」と軽トラ代わりに外車で畑へ行くユニークな発想の持ち主、地域でも一目おかれる存在でした。東日本大震災以降は地元の営農再開、風評対策、生活再建のきっかけになればと南相馬からの発信に尽力し、野菜や加工品の開発も積極的に取り組んで来ました。販路、新たな出会いなど得るものは多くありましたが、社内が少し煩雑になっている部分もありました。世代交代を機に、まずは事業の整理から取り組みました。
種苗業界全体は20年ほど前から成長市場です。以前は生産者が種から育てることが主流でしたが、他の業界と同様に、専業・分業化が進み、生産者は苗からの栽培に変わって来ています。理由の一つにリスクの大きさがあります。苗がうまくできなければ、最終的な収量にも影響します。収穫時期まで育て、実が成らないこともあります。個人の生産者はもちろん、規模が大きくなればその分、経営に影響を与えます。
生産者、そして人々の食卓を支えているのが、カヤノキファームのような苗屋の存在。苗の出荷が始まると数ヶ月先の収穫段階までは「電話が鳴るのが怖い」とシーズン中は気が抜けません。この世界に入り14年、逃げ出したいと思うほどの大きな失敗も経験し「安定供給、高品質の苗づくりを極めたい」と、想いを年々強くしています。
苗は種から芽が出たばかり、植物の赤ちゃんですので管理にはとても気を使います。就農10年目頃から、その日の温度、湿度をハウスに入った時に、只野さんは感覚で解るようになり、今、このハウスに必要なものが、何かを判断できるようになりました。今後は、そういった経験で培ってきた感覚的な判断を、従業員にもわかりやすく伝えるための仕組み作りをしていきたいと考えています。
また、苗の安定供給では特に横の連携が重要です。予測をして作っても、万が一は起きます。「足りなくなりました、ごめんなさい」は通用しません。同業者はライバルでありながら同志です。全国組織「日本種苗協会」では余剰、不測の情報を共有し、補い合うことで全体の需要をカバーしています。
今では「〇〇さんが作った野菜」と顔の見える作物は定番で、スーパーで日常的に目にします。これからは野菜の元になる苗も「〇〇さんの苗で作った」と名前で選ばれるようになればと考えています。野菜を販売した際に「カヤノキファームさんの野菜はすごく長持ちする」「味の濃さが違う」と驚かれました。丈夫な苗だから美味しい野菜になる。考えれば当たり前ですが、なかなか苗に注目されることはありません。差別化の可能性に期待をかけ、更なる品質向上を図ります。
これまで蓄積されてきた技術やノウハウ、父親と一緒に働いてきた従業員の存在が強みです。異なるタイプの経営者である父親から、多くを学びました。「違うのでは?」と思っても「父は父なりの考え」と冷静に受け止め、意見の対立はありません。異なる発想と行動力、積み重ねてきた事業経営のやり方から学ぶ点があるからです。父親が「動」ならば、只野さんは「静」、しかし、苗にかける情熱は同じです。カヤノキファームは、生産者、食卓を支えるべく、頼れる、誠実な苗屋であることを目指します。
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