前職はヘアメイクとして活躍していた大山さん。実力が認められ、大物アーティストを担当し全国ツアーなどの大きな舞台にも同行していました。転機は28才になった頃。この先も第一線で競争を続けていくことに、厳しさを感じるようになりました。また物や報酬を得るだけでは、心が満たされないことにも気づき始めます。
そのとき頭に浮かんだのは「ものづくりがしたい」ということ。自分が作るものにとことん向き合いたい、また仕事を通じて出会ってきた美味しいものを自らの手で作りたいという想いから農家への転身を決めました。先輩農家を訪ね歩いた末、いちごと出会ったのは故郷の香川県。オリジナル品種の「さぬき姫」を食べたとき「この地域のいちごはもっと美味しくなる」と確信しました
最初に1人で始めたいちご栽培も、現在は様々な境遇の従業員と共に作り上げています。だからこそ大山さんが大事にしているのは「従業員の働きがいと利益の創造」。空浮での仕事が、従業員の暮らしの豊かさに繋がることを目指しています。空浮では副業を歓迎しており、学生や子育て中の従業員はもちろん、中には一般企業に勤めながら、出勤前に朝の収穫作業に参加している方もいます。
「少しでも農業に関わってもらうことで、自然相手に仕事をする気持ち良さや生活のゆとりをもたらすことができれば」と大山さん。経営を通じて多くの人を幸せにしたい、働き方の常識を変えていきたいと話します。副業の他にも、社内評価には全員に参加資格のある選挙制度を取り入れるなど、全従業員にとって公平で納得感の高い仕組みを採用しています。
大山さんはいちごの味を最大限引き出すこと、そしていちご本来の美味しさを多くの人に届けることにこだわっています。「生命維持だけの食ではなく、心豊かにになる食も人生にとって重要だと思います。“空浮いちご”でそのひと時を味わってもらいたい。しかし、それは決して高級品を作りたいという意味ではありません。沢山の人にとって手が届くものを作り、多くの人に本当の美味しさを楽しんでほしい」
そのため従業員の育成には力を入れています。「お客様には、自分が美味しいと自信を持って言えるものを食べてもらう」という基本姿勢や工夫を重ねていく面白さなど、必要な視点まで丁寧に伝えます。希少性が価値となる農業。従業員一人ひとりが真摯にいちごと向き合うことで品質の向上を実現しています。
2010年、18aの土地にビニールハウスを建てることから1人で始めたいちご栽培。初めて一緒にやりたいと手を挙げてくれたのは、現在役員を務める近所の米農家でした。その後人の紹介や評判を聞きつけ、少しずつ仲間が集まり今ではパート社員を含め22人に。作付面積も76aに広がりました。作付面積を拡大すると、一般的には手入れが行き届きにくくなり収量や品質が落ちることもあります。しかし空浮では収量、単価ともに右肩上がり。1kgあたりの平均単価は、いちごでは県内で最も高く取り扱われています。品質を維持できる理由は、必ず従業員を育ててから規模を拡大しているから。従業員の働きやすさを第一に考えているため、人数が増え一人ひとりの対応力が付いてから生産規模を判断しています。
大山さんがいつも心がけているのは、すべての工程でベストを尽くすこと。これは一流のクライアントを担当していた前職でも徹底していました。空浮は、いちごの実に十分な光が当たるよう葉の枚数までコントロールしています。細かく管理するのは、ひとえに良いいちごを作るため。一つひとつは小さな作業ですが、最後いちごを食べたときに必ず差となって表れるといいます。また“空浮いちご”を知ってもらうために「お客様にどう見られたいか」を常に意識しています。
選果場が全面ガラス張りなのもその工夫の一つ。唯一無二の選果場には、従業員が楽しそうに作業する姿や丁寧な仕事ぶりを伝えたいという狙いがありました。作るときは手間を惜しまず、こだわりや美しさもしっかり見せる。本当に美味しいいちごを多くの人に届けるため、大山さんは今日も自分がやるべきことを考え続けます。
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