就農前、歴史館で学芸員をしていた芦原さん。もともと自然が好きで、いつかは緑豊かな能勢に住みたいという思いがあり、奥様の智峰子さんに背中を押され、退職して能勢で就農することを決意しました。
農業の仕事を探す中で出会ったのが、能勢町の農家が生産する有機野菜です。多彩な種類や美味しさに感銘を受けた芦原さんは、2017年からの約3年間、その農家で一から栽培技術を学びます。子どもが生まれ、次は「家族が食べる野菜を自分で作りたい」を考えるようになり、2020年に独立。すみれファームを設立しました。
就農前も今も変わらず持ち続けているのは、自分たち家族の食卓を豊かにしたいという想い。そのため、安心安全な栽培方法と少量多品種生産にこだわり、自らが食べたいと思う野菜作りを続けてきました。同時に、「お客さんが笑顔になれる野菜をお届けして、美味しい!楽しい!豊かな食卓を分かち合う」をモットーに、品質向上にも努めています。
栽培する野菜は約30種で、それぞれ個性豊か。特に最近は、固定種や在来種といった伝統野菜の栽培にも力を入れています。「広くは流通していないけど美味しい、昔ながらの野菜にスポットを当てたいと思っています。それを自家採種して、来年、再来年と作りつづけ、看板になるような野菜に育てたいですね」。
この冬からは、能勢の山で拾った落ち葉を使った「落ち葉堆肥」で土づくりをスタート。能勢の自然を活かし、自然環境に負荷をかけない循環型農業に挑戦しています。
主な販売方法は、八百屋や飲食店への卸売と直接販売です。「家族で畑に来てもらい、野菜が育つ様子を見ながら体験農業をしてもらいたい」と野菜の収穫体験も開催。これは、スーパーへ行く感覚で気軽に畑に寄ってもらい、活き活きとした野菜を自分で収穫して購入してもらうという試みです。また、畑にテントを張り、朝一に収穫した野菜を並べて現地販売したり、有機野菜のマルシェに出店したりと、お客さんと顔の見える関係を築くことにこだわってきました。今後は、野菜のセット販売や個別配送、移動販売など直接販売の比率を増やす予定だそうです。
この販売スタイルのメリットは、価格を自分たちで設定できるところ。「有機野菜をベーシックにしたい。そのために、一般家庭でも日常的に買える値段で売りたいと思っています」と芦原さん。買いたいと思えるラインを見極めて価格を決めることは難しい作業ですが、価格変動が激しい野菜市場でも、常に適正な価格を維持することが可能になります。
直接販売に取り組む最大の理由は、お客さんとやりとりが楽しいから、と話す智峰子さん。おすすめの野菜やレシピを聞かれることが多く、芦原さんご家族の料理方法を紹介しているそうです。お客さんからも、すみれファームの野菜を使った料理をSNSにアップしてくれたり、マルシェで「この間のナスおいしかったよ」と声をかけられたりと、反響が手に取るように分かります。
収穫体験に芦原さんのお子さんと同年代の子ども達が訪れると、畑は楽しい遊び場に。ともに遊び、ともに美味しい野菜を食べて育っている。その実感が充足感につながっています。「食べるものから人間の体ができていますから、それを自分たちが作っているということに感動します。収穫に代わる楽しさはありません」と笑顔の芦原さん。今年からはさらにほ場を増やし、手植えでの米作りにも挑戦するそうです。
芦原さんによると、能勢は新規就農の農家が多いそうです。各々が特徴あるビジネスモデルを実践しているため、先駆者を目標に、独自の経営スタイルを切り拓きやすい土壌があります。また、有機栽培にこだわる農家同士のコミュニティも貴重な経営資源。能勢町の隣にある亀岡市の農家とも交流を広げ、価格設定や落ち葉堆肥の方法などのノウハウを積極的に学びながら、自らの農業に取り入れています。
昨年は、収穫体験やマルシェへの出店、自家採種と、やってみたいことに積極的に取り組んだ挑戦の年でした。時期によって収穫に波があり、ロスも出てしまいましたが、今年はその反省を生かす年。年間を通じて安定した収量と収入を確保するために、作付け計画を練り直すそうです。小さな家族経営の農業を維持しながら、多品種を丁寧に育て、品質の良い野菜を作りたい、と揺るぎない想いで農業に向き合います。
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