阿部さんが東京地球農園に加わることになったのは、東京都の職員として学校で事務をしていた55歳の時でした。定年を迎えた後に何か新しく始めるより在職中に少しずつ訓練したいと思っていました。仕事の延長で資格を取り事務を続ける道もありましたが、自然に触れ合い、コツコツと趣味もかねてできる農業を選びました。定年後も数年は嘱託と並行して活動し、その後先代の清水さんから代表を引き継ぎ、現在は阿部さんを含め3名で運営し、約20名の農園体験会員がお手伝いをしています。
商業施設の建設により今の場所に農地を移転した後、周辺の耕作放棄地や、高齢で農作業が困難になった方の農地を引き受けてきました。「ここは市街化調整区域のため、家も立てられません。今後高齢化による耕作放棄地はますます増えると思います。最終的にはこの辺り一体を管理していくことも考えています」と阿部さんは言います。
さらに引き受けたのは農地だけではありません東京地球農園では「EMぼかし(有用微生物群)」を製造して、地球にやさしい資源循環型農法に取り組んでいます。もともとは障害者施設でつくられていた「EMぼかし」ですが、そこが製造を終了し困っているという声を聞き、阿部さんが製造を引き継ぎました。あきる野市では、生ごみの減量・堆肥化を進めており、この「EMぼかし」は家庭での生ゴミ処理に必要とされています。
地域の農地を引き受けている東京地球農園は、今後も農地を維持していくことが求められています。そのために必要なのは持続可能な収益基盤と、次世代を担う人材です。
以前は商業施設などで野菜を販売していましたがほとんど利益にならず、NPO傘下ということで、赤字でも運営は継続してきました。しかし、昨年のコロナにより母体のNPOの収益が悪化。東京地球農園は傘下を離れ、法人化を目指すことになりました。ちょうど2019年秋から始めた収穫体験が好調だったので、事業の軸足を野菜の販売から収穫体験にうつしました。コロナ禍で都外に移動できないTVの取材依頼がHPを通して多く、さらに相乗効果で収穫体験の問い合わせも増加しています。
ただ現在スタッフが少ないため、問い合わせが多くても収穫体験は午前3組、午後3組という少ない人数しか受け付けられません。より多くの体験希望者に対応できるようスタッフを募集するために、報酬等の仕組みも変えていきたいと思っています。
現在いる3名の運営スタッフは有償ボランティアのような働き方をしています。最初に農地を引き継がれた久保武男さんと代表の阿部さんは、2人とも年金生活者です。そしてもう1名は農業に興味があると4年前から参加している阿部紀子さん(代表の阿部さんとは偶然同じ苗字)。彼女は複業の1つとしてお手伝いをしています。今後はアルバイトとして人を雇えるようにしていきたいと話します。
また、現在73歳の阿部さん。農業に興味がある若者が来たら、いつでも代表を譲りたい、次の若い世代に引き継ぎたいと考えています。その時には生活をかけて「職業」として運営をしてほしい。そのためにまずは法人化し、収穫体験を軸に収益基盤づくりを目指しています。
スタッフの阿部紀子さんは、農園体験会員の方への対応を任されており、農作業を通して、仕事や育児、介護などで疲れている方たちの気持ちをほぐしていきたいと考えています。さらに収穫体験で初めて農園に来た方達がとても楽しそうにしているのを見るのがやりがいだと話してくれました。
収穫体験に来るのは、主に就学前の子どもがいる家族とのことです。代表の阿部さんは今の子ども達は土に触れる機会も少ないだろうと、作物を育てていない農地を耕して土をフカフカにして、思いっきり穴掘りなどができる環境を整えています。また今後は畑の横にある森の所有者を探し、子どもが遊べる森をつくりたいと計画しています。
そこには子ども達にいろいろな自然体験をさせてあげたい、そしてその子どもの体験を通して、社会へ貢献したいという強い想いがあります。
地域の耕作放棄地を引き継ぎ、永続的に農地として活用するために、次世代の人材へバトンを渡す。またその次世代を担う子ども達の自然体験を通して、未来をつくる。安全・安心な野菜をつくることから始まった東京地球農園。そのミッションを大きく広げながら次世代への引き継ぎを目指しています。
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