耕作放棄地を人が集まる畑へ。300人以上のコミュニティを持つ農家

エガワコントラクター/江川正道
福島県喜多方市。街を見下ろす景色のよいアスパラガス畑は以前、耕作放棄地でした。建設業で圃場整備をしていた江川正道さんの父、正則さん。市からの依頼で、増えていく耕作放棄地の整備を行っても使い手がいないという問題に直面し、自分たちで整備した土地で農業を行う会社を設立しました。設立当初は本業の建設業で持っている大可型機材を投入し土づくりを兼ねた農業をしていましたが、長男の正道さんが引き継いだ頃から「どう野菜を販売して売り上げていくか」にステージが変わっていきました。

まずは育てられる野菜を見極める

耕作放棄地というのは、地力がなく、土の中のPh、水捌け、また病気など問題がある場合が多く、実際につくってみないとわからず、すぐに普通の野菜をつくるのが難しいと言われています。まして、農業をやったことがないので、まずは土づくりもかねて、野生に近く、種に力のある薬草から、スタートしました。初の収穫を終えた翌年の春、東日本大震災が襲います。喜多方は、福島県の中では直接的な被害は少なかったものの、風評被害により薬草を卸せなくなりました。薬草の多くは薬事法に基づき、漢方薬屋にしか販売できないため、3年目から少しでも売り上げにつながる一般野菜へとシフトするようになりました。

ちょうど江川正道さんが引き継いだのものこの頃です。素人の自分たちがつくれる野菜はなんだろう?と色々検討している中で、喜多方が産地のアスパラガスは土地にも合い、地元でサポートが受けられるということで生産を開始しました。さらにいくつか野菜を実験的に生産し、今ではアスパラガス、蕎麦、にんじん、ジャガイモ、サフランを育てています。ジャガイモは耕作放棄される前にその畑で育てられていたもの。「畑にもストーリーがあるので、所有者などから話しを聞いて、まずはそのストーリーに沿ったものをつくってみて、今後もやるかを判断しています」と江川さんは話しました。

人が離れて荒れた土地に人を戻したい

父、正則さんが薬草を育てていた頃から今も残っているのは、サフランです。サフランは雪国で育てるのが難しいですが、耕作放棄地は殺風景のため、「荒地に花を」と色があるものとして選ばれたのがサフランでした。育てています。薬草でも一般販売も可能なため現在も育てており、データを取りながら自分たちの土地にあう育て方を模索しています。

またこの父の花を植えて畑に彩りを戻したい、そして人が訪れるようにしたいという思いは、息子の正道さんも持っています。それは、人が離れたことで耕作放棄地になった畑に多くの人が来て、「人」による「彩り」がある畑に戻ればいいというものです。最初は、友人や地元の子どもたちを呼んでいましたが、いつしか畑を訪れる人は増えていきました。

人とのつながりをいかして300人を超えるコミュニティをもつまでに

畑を訪れる人は地元の方から、少しずつ地域も目的も変わっていきます。大きなきっかけは、2016年に「東北食べる通信」にて特集されてから。共通の友人の紹介で編集長に会い、耕作放棄地へ人を戻したいという想いを語った1年後に特集が組まれました。そこからどんどん人がつながっていったと言います。

まずはこの通信を見て人が来て、さらにその友達へとアメーバのように広がっていき、だんだんとコミュニティ化していきました。もともとは江川さんがすべて企画をしていましたが、コアメンバーができ、コミュニティマネージャーを立てたことで、さらに加速したと言います。現在、FBグループで300人がつながり、FB以外にもその数は広がっています。

ここまで広がった理由の1つは、江川さんが大事にしているコミュニティ参加目的の自由度。アスパラガスファンだけではなく、キャンプが好き、広いところで歌いたいなどさまざまな理由から参加する人も。実際GWに畑では収穫だけでなく、音楽や福島のお酒なども楽しめるイベントが、収穫後には江川さんが東京に来て、コミュニティのメンバーなどとお酒を飲むなどのイベントが毎年行われています。(2020年はコロナのため、オンラインで収穫イベントを開催)

コミュニティがあるからこそ成長してこられた

コミュニティがあってよかったことの1つが、まずは「届け先の顔が見えること」。よく生産者の顔が見える野菜が売られていますが、江川さんの場合は双方の顔が見えます。届いた後の喜ぶ顔、感想が思い浮かぶからこそ、アスパラガス1本ずつに目をかけて愛情をかけて育てるモチベーションにつながっています。

そして2つ目は、自分で営業をしなくても口コミで販路が広がること。ECでの販売はアスパラガス1Kg。そうすると、1人暮らしの方など食べきれなくて、友人にあげたり、行きつけのレストランなどに持っていってくれたりするそうです。そして購入者が江川さんのストーリーを宣伝してくれます。そうすると実際に食べ、興味を持った飲食店などから注文が入るようになったそうです。有名なシェフとも購入者のSNSでの発信を通してつながり、シェフがアスパラガスのおいしい食べ方をSNSに投稿した翌日大量に注文が入っていたこともあるそうです。

もちろん、コミュニティは販路としての良さも持っています。1つしか販路がないと、単価や出荷スケジュール、B級品が出た時などに困ることもでてきます。そこに300人のコミュニティという1つの大きな販路が加わることで、ここの方達が「喜んで買いたい!」と思ってもらうにはどういう商品がいいだろう?と考えるようになり、またある程度の売り上げ予測や事業計画も立てやすくなったと言います。

昨年はコロナで飲食店向けの出荷は減りましたが、コミュニティのおかげで、個人向けの出荷数は2019年の4倍になったとのことです。


働く人の時間を尊重する

現在、エガワコントラクターでは、雪解けから冬までの間に3−4人の方がパートとして、子育て中だったりWワークだったりと隙間時間に働いています。パートの方が働きやすいように、この日に来て欲しいという強制はせずに自由にシフトを組めるようにしているそう。その自由を保てるのもコミュニティがあるから。例えばパートさんが誰も入れず、発送している余裕がない日は地元の方に呼びかけて取りに来てもらいます。またパートさんたちにはコミュニティに投稿された野菜の感想などを共有しています。このことが顔が見えるコミュニティの方たちに、そして江川さんの大好きな人たちへの贈り物をつくっているという想いとなり、働く方のモチベーション維持につながっているそうです。


耕作放棄地解消スピードと人を集めるスピードを合わせたい

今後の展開として考えていることの1つは、コミュニティをいかしたビジネスモデル、たとえば野菜のセット販売などを展開していきたいと考えているそうです。

もう1つは新規就農者への支援。自分たちが耕作放棄地で1から苦労したからこそ、新規就農者に余計な苦労はかけたくないと言います。命と向き合って、野菜をつくる苦労だけで十分。だからこそ、耕作放棄地の地力をあげ魅力的な野菜がつくれるようにし、さらに自身のコミュニティを含めて販路をつくり、それを新規就農者へ渡していきたいそう。耕作放棄地は年々増加していきます。そこを自分たちですべてを管理するには限界がきます。そのときまでに興味を持って畑に来てくれる方、そして就農する方を増やしていきたいそうです。

江川さんが、あえて難しいサフランを育てながら自分たちの土地に合う方法を模索したり、コミュニティを柱にビジネスを考えたりしていることには、異業種からの新規就農者としての想いがありました。「おいしい野菜づくりを追求するのもいいけど、それは農業従事者が1人増えただけ。自分たちがいることで、農業の裾野が広がる、可能性が広がるということに尽力した方が、農業という世界に入った意味がある」とその想いを語ってくれました。

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