小さく始めて緩やかに進めてきた菜園型農園

株式会社 えと菜園/小島希世子
代表の小島希世子さんは熊本県の豊かな農村地域出身。教師のご両親の家庭に生まれ育ちました。「農家さんになってアフリカで農業をやりたい」と、小島さんは8歳の頃、飢饉に見舞われた国のドキュメンタリー番組を見て農業を生業にする夢を持ちました。神奈川県藤沢市。国道沿いにある、くまもんが目印の小さな直売所兼事務所。周りに点在するのは虫や雑草も野菜と共に育つ豊かな農地。この場所が「えと菜園」「コトモファーム」の拠点です。小島さんは自分の農業スタイルを模索し、一人でもできる自然農法のビジネスモデルを考案。新規就農をしました。近年では農業者向け研修のゲスト講師や家庭菜園雑誌の監修まで活動の幅が広がり「これまで培った農法をわかりやすく、人に社会に伝えたい」と日々、努力されています。

新規就農のきっかけは?


小島さんは子どもの頃の夢を胸に、農学部を目指しますが受験に失敗。そんな時、予備校の先生から食料問題や国際協力を学ぶ学部を勧められ、慶応の環境情報学部へ進みました。卒業後、農作業の流通業や有機農業の組合に就職しました。さまざまな農家さんや農産物卸業者さんに出会ったことが、自身の農業ビジネスモデル構築の礎になりました。そして2006年に独立。身体一つでの神奈川県藤沢市での新規就農でした。



目指した自然農法ビジネスとは?


一人で農家をやっていくにはどうしたらよいのか…大きな農地や大量の野菜作り、大きな売り場を持つことはできない。そこで考案したのが複合的なビジネスモデルです。それは農を中心に3つの柱「つくる」「食べる」「学ぶ」が成長していくプランです。一つ目の「つくる」は農薬・化学肥料を使わない自然農法で、少量多品種(年間約30種類)を自給自足の延長や巨大菜園のイメージで野菜をつくることです。



収穫した野菜はマルシェや近くのスーパーに卸し、消費者の顔を見て届けます。二つ目は「食べる〜食べるを届ける」です。熊本県の農家さん直送のネットショップの運営です。出身地・熊本県の自然と環境と共に生きる農家さんのこだわりや、農業への想いを商品と共に伝え、生産者とお客さまを結びます。三つ目は「学ぶ」です。貸し菜園「コトモファーム」ではお客さまは種まきから収穫まで自分だけのエリアで年間約20種類の無農薬野菜を作り、楽しみながら学ぶことができます。また農業の起業者向けの少人数制の独立就農講座も行ないます。



三つの柱はどれも農家とお客さまが繫がり、お客さまの声がダイレクトに受けとめられます。そして商品とお金の交換というよりは、食べるのも人、作るのも人、人から人へ…という感覚を大切にしています。農業の多様な機能に着目した小島さん。三つを同時にやることは大変ですね、と伺うと「出来る範囲で小さく始めると同時進行しやすいんですよ」と、さらりとしたお答え。目と手が届く無理のない範囲で、小回りのきく運営をしています。


農業経営を成長させるために鍵となったことは?


このビジネスモデルは農家の現場をお客さまに応援してもらうことに繋がります。生産力をつけるには立ち上げから3年〜5年はかかります。キャッシュポイントが生産だけでは成り立つことが難しいので、まず生産者とお客さまとの距離が近づくように農家直送のネットショップを作りました。同時に貸し菜園「コトモファーム」ではお客さまと一緒に農業を学び野菜を育てます。農業体験は月会費制。



生産された野菜は全てお客さまの物になります。天候のリスクも共に学ぶシステムです。「10坪を30坪にして、そこから1反…4反…1町にして10年。時間はかかりましたが(笑)小さく始めて少しずつ育てることならお伝えできるので、農起業したい方向けの独立就農講座もしています」初期投資を少なく、小さく始めて少しずつ売り上げ、余剰分を投下していく。年輪を増やすような自然の時間サイクルに人間が合わせるイメージの事業計画です。



この体験講座は毎年半年、少人数制で学びます。農機具やトラクターの扱いから、農園計画をたてたり、近所の農家さんと交流をしたり、農の現場をそのまま体験出来ます。今年で7期が終わりました。修了後は就農した人が多く、北海道や四国に移住した人、野菜を給食に出荷する人、カボチャからビールを造る人…自分らしい農業人として活躍しています。小島さんの栽培哲学は、大量生産より共存することです。起業前に自然農法を実践する熊本県の農家さんを訪問して、自分自身も自然農法で作ろうと考えました。



しかし反対の声もありました。手間ひまのかかる自然農法では生産性が上がらないと…。けれど小島さんは志を曲げることなく自然農法に挑戦しました。近年、「えと菜園」が日本大学の農地の生物多様性についての研究対象になり、調査の結果、雑草は90種類、虫は70種類もいたそうです。自然農法の菜園は栽培物を美味しく作る一方で、雑草や虫を敵とせず、命の営みに添い作物と向き合う場です。お客さまと作業を楽しみ自然を感じ、交流が生まれています。


小さく始めて、徐々に規模を拡大させてきた道のりとは?


「一人で始めたネットショップも菜園も、最初は知り合いがお客さまでした。そこから人から人へ、緩やかに広がり、現在は従業員6人、菜園加入者は140組になりました。また菜園でイベントを行うと近隣の農家さんも参加し、年間約5000人が来場し、地域コミュニティーの起点になっています。「自然派生だからでしょうか。とても心地よい関係があります」順風満帆に見える小島さんですが、一足飛びにここまで成長したわけではありません。辛いときも希望を捨てず、苦労を楽しみながら続けて来たと振り返ります。



農家さんを訪ねたり、情報収集も大切ですが、農業が自分に合うかどうかは実際に畑に出ないとわからないからまず土に触れる。すると見えない世界が見えくると言います。そして、「小さく出来ることから動き、お金に関して無理をしないで」と肩の力が抜ける答え。辛いことも乗り越えると次の自信になると、困難なことは小島さんにとってトレーニングのようです。事業展開は出来る範囲でコツコツと。過程を楽しみながら、まるで自然栽培の畑のように、集まる人と自然と共に成長しました。



2019年11月、小島さんは友人のサポートにより初のアフリカ視察を終えました。「こうしたいな…と思うことを公言していると、周りの人が手を差し伸べてくれます」小島さんが発信した思いは人から人へ、JICAの方やアフリカの農業者の方に繋がりました。アフリカの土を見て、今までやってきた自然農法が出来ると手応えを感じたそうです。「10歳の夢から30年。まだまだファーストステップですが」と笑顔の小島さん。小さな菜園が地球の食の未来を変えていく日もきっと、もうすぐです。

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