世代交代を見据えて父親とともに農業に取り組みながら、大西さんは「農業」と「今」について考えてきました。野菜の規格にばかりこだわり、天候に左右されることに抗えない農業に対して、これまでと同じやり方で続けていても未来がない、そう感じていたという大西さん。これからは「モノ(作物)を売るのではなくコト(農業体験等)を売っていく時代ではないだろうか。
その考えを父親である先代にどう伝え、どう取り組んでいくか・・大西さんはご自身の考えを温めながら「理論・テスト・結果」が揃えば、必ず先代を説得できる!と信じ、動き出しました。
「規格外の野菜ができるのは当たり前のことなのに、規格を揃えることばかり考えたり、天候によってその年の商品(作物)がゼロになる可能性のある産業なんて、農業の他にないでしょう?」これまでの農業とは真逆の視点を持つ大西さんの取り組みは、「理論」を先代に理解してもらうことから始まりました。
そして、野菜の個体差を生かした加工用としての販路を構築したり、作物ひとつひとつに値段を付けて売るのではなく、「育てる体験と実った作物」を合わせて一定額で販売することを目指し、「テスト」する日々が続きます。
トライアルとなったのは、知人からの紹介でハローワークの農業体験企画でした。求職中の方々50名がキャルファーム神戸へやってきて、収穫期を終えたトマトの枝を処分する作業を手伝ってもらいました。すると、これまでご両親と大西さんの3人で1週間かかっていた作業がなんと半日で片付いてしまったのです。
さらに嬉しいことに、畑にやってきたときには浮かない顔をされていた人も、作業を終えるとどこかすっきりとした表情になっていたという、求めていた「結果」が出たのです。アンケートには「農業をやってみようかと思うようになった」という声まで上がっていて、先代を説得できたことはもちろん、大西さんの中の構想がいよいよ現実として動き始めたのです。
こうして実績を重ねるごとに、リピーターが増え、口コミでいろいろな業種から「農業体験」の依頼が増えていきました。地元の工務店「有限会社すみれ建築工房」さんとは年間契約を結び、企画から一緒に練ることで毎年新しい取り組みが広がっています。すみれ建築工房の従業員の方々はもちろんお客様も皆、キャルファーム神戸へ月2回ほど足を運び、農作業をし、できた作物を持ち帰ります。今年は皆で紫キャベツとサツマイモを育て、知り合いのレストランに加工をお願いし、スープのベースとなるピューレを作りました。キャルファーム神戸と地域の皆さんの手で「すみれ建築工房」の20周年を祝う「すみれ色のスープ」ができました。
【calfarm】の由来は、[creative agriculture life]。食を、農を、地域を、みんなで創造し笑顔を、豊かさを、人生を、みんなで育んでいきたい。その思いは着実にカタチとなり、実績を重ねています。
大西さんは今の時代に合った「農業」について、生産技術や経営方法はもちろん、社会における農業の役割など、常に広い視野をもって考えていらっしゃいます。2代目として就農したメリットを訊ねると、「それはやっぱり家から歩いて行ける距離に農地があって、トラクターなどの設備もすでに整っていることですね。」とおっしゃいます。だからこそ、新しい考えを素早く試すことができるのです。先代が残してくれた環境と、地域の方々、他業種の方々との出会いを大切に、キャルファーム神戸の新しい「農」へのチャレンジは続いていきます。