高齢者の離農が進み農家が減少する中、「地元の農業の受け皿になろう」と立ち上がった横井さん。始まりは「大型トラクターを保有しているが作業が難しい」「田植え機は持っているけどコンバインは持っていない」など、問題を抱える近隣農家からの、田植えだけ、稲刈りだけ、といった作業受託でした。現在は圃場の管理全てを行い、その圃場を所有する農家に借賃として、そこで収穫できたお米や現金を渡すという形を取り入れ、稲作を中心に麦やダイズ、キャベツの栽培など年間を通して農業を行っています。
戸倉トラクターは農業の担い手を増やすべく新規就農のハードルを下げ、特に若年層の就農促進を目指しており、現在20代・30代の男性3人が正社員として働いています。横井さんは地域のいろいろな集まりにも積極的に参加し、地域の農業への貢献に努めています。
農作業での事故を避けるため、日が落ちた後の作業は絶対禁止としています。無理のない範囲の面積で計画的に作業を行い、大きな機械トラブルの場合などを除き、8時~17時という就労時間通りの労働条件で作業を行っています。名古屋市内まで車で1時間以内という立地にある戸倉トラクターは、プライベートと仕事の両立を求める若年層にとっては、「趣味の時間を大切にしつつ、農業に関わることができる」というメリットがあります。
また閑散期は土日休み、繁忙期でも基本的には日曜日休みを保つだけでなく、休みたいときは事前に申請することで、計画的に休みを取れるのも戸倉トラクターの魅力のひとつ。横井さんは「ダラダラと休みなく仕事をするのではなく、休める時期はしっかりとまとめて休んでもいい。タイミングを自分で見極めてメリハリをつけてほしい」と言い、閑散期であればまとまった休みを取ることもできる環境づくりに努めています。
また、戸倉トラクターでは今後を見据え、女性でも働きやすいよう、水洗トイレや更衣室、シャワールームの整備なども検討しています。例えば、朝、電車で出勤して更衣室で着替え、農作業後も汗や泥の汚れを洗い流して電車で帰る、というような働き方ができることを目指しています。「農業でも、普通の会社のように働ける環境づくりをしていかないと、泥臭いイメージが残ってしまう」と、横井さんはイメージ払拭に燃えています。
農作業の経験が少ない若い従業員は、経験豊富な従業員と一緒に作業を行います。脱サラして農業の世界に入ったという従業員の山口さんは「(就農前は)機械作業は楽そうだと思っていたが、実際には考えること、学ぶことが多い」と、いい意味でギャップを感じたそうです。農業は天候や環境、現場の状況により応用が必要となる場面が多いですが、働き始めた当初は教科書的な知識に頼りがちでした。しかし半年から1年ほど農業に従事しているうちに、身をもって経験して得た知識の大切さに気づくようになっていきます。ゆくゆくは自分1人でも作業を進められるように、土壌診断の仕方や土づくりについて全員でミーティングするなど、積極的に先輩たちの知恵を学ぶ機会を作っています。
「興味を持ってもらう仕組み・仕掛けを作っていきたい」と言う横井さん。1年を通して生産したお米を販売した際には、その年の収量と売価を実際の数字で出し、面積に対してどれだけの売上になったか、わかるようにしています。収穫した作物という収入源が目に見えるので、来年はどうすれば良いのか、天候に左右される部分以外でやれることはなかったのかなど、自然とみんなで考えるようになっていきました。こういった環境がある戸倉トラクターでは、従業員のみなさんひとりひとりが「頑張ったら頑張った分だけ収穫量が増え、結果がみえる」とやりがいを感じで働いています。
また戸倉トラクターでは、新しいことを積極的に取り入れているようにしており、毎年新しい品種の米を1種類は試すようにしています。こうした取り組みによって、新しい美味しいお米との出会いがあり、自分たちが美味しいと感じたものを作っていける環境づくりにも一役買っています。
さまざまな新規技術を活用して、作業効率を上げるための取り組みを行っています。トヨタ自動車の生産管理のノウハウを農業に転用した生産管理ツール「豊作計画」を導入したのもその一環。栽培品目や圃場の位置・広さ、作業者数や作業時間を一元管理できるクラウドサービスで、スマートフォンがあれば日報の入力や作業状況の確認ができます。これを地域で取り入れて活用することで、作業内容や作業コスト、圃場ごとの作業進捗をいつでも把握することができます。データ化することで、ベテラン従業員のノウハウや技術を若手に受け継ぎやすくでき、農業機械の整備代がこれだけかかっているなら、そろそろ新しいものを購入したほうがいいなど、投資のタイミングを知ることにも利用でき、作業効率の向上だけでなくコスト削減にも期待できるそうです。
また、無人ヘリコプターを外注して行っていた農薬の散布作業を、小型無人飛行機(作業用ドローン)操作の認定制度を利用し、内製化。「従業員はみんな若いので操作方法を覚えるのも早く、新しい機械や技術にもすぐ対応してくれる」と横井さんは言います。最新の技術や知識を農業に取り入れることは、土地勘がなかったり、経験が少なかったりする新規就農者にも農作業に従事しやすくしています。
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