井出さんは両親が楽しそうにトマトを作っていたのを見ながら育ちました。大学卒業後、他業種の会社を経験してから就農。パートさんの二倍働こうとがむしゃらに働いてきました。通常、収穫したトマトは農協、市場、スーパーと運ばれお客様の手に渡ります。数日間、鮮度を保つために青い状態での出荷を指示されることもありましたが、それでお客さんの手に渡って食べてもらっても、一生懸命に作ったトマトを正しく評価されない。それはどうなのだろう、お客さんは笑顔になるだろうか、と考え直売所やネット販売を始めるなど、新しいやり方を常に考え挑戦してきました。
「ただトマトを作っているのではなく、お客様の笑顔を自分たちが作っている」と従業員に伝えているそうです。また、一緒に働いている従業員が疲弊しないためにも、売上主義にならないように気をつけているといいます。井出トマト農園の歴史にも誇りがあり、農業自体に魅力があって、商品にもこだわりがある。常に経営について考え、井出トマト農園をアップグレードするためにも、年に4回経営計画書を更新する会議を従業員と一緒に開催しています。
「昔は、自分の力で紙飛行機を投げてうまく飛ばすイメージで経営をしていたが、飛行計画を立て、紙飛行機にエンジンをつけて、ゆるやかに飛ばしてあげるイメージです。」と井出さん。 “人材育成”と“IT技術の導入”と2つの両輪を持つことで、トマトの収穫量や品質、また人材の定着も安定させることを目標としています。
井出トマト農園では50人ほどの従業員が働いており、生産部門、荷造り部門などチームに分かれて作業をしています。10箇所のハウスで13種類ものトマトを作っていますが、2013年以降に開発したシステムを入れたことでデータ化され、収穫量や生産管理が効率よくできるようになりました。従業員もその日どこで何の仕事をしたか、どれくらい収穫したか、何時間働いたかを入力します。そうすることで、目標の仕事量と実際の仕事量など目で見てわかるようになり、作業のモチベーションにつながっているそうです。
井出さんは、「チームの成功が会社の成功」と考えており、各チームでも目標を立てています。データ化することで社員の方が主体的になり、今まで壁だった1時間当たりの収穫量30キロの壁も楽に超えられるようになりました。また、管理者が今まで収穫量などの計算を直接データ入力していた手間もなくなり、労務時間を減らすことができました。
売上や収穫量が上がればモチベーションが上がる社員もいれば、そうでない社員もいます。「売り上げが上がることが働いている人の幸せに繋がるとは限らない」そう感じた井出さんは、社員一人一人と定期的に個人面談を行うようにしています。また、結婚や忌引きの際は慶弔金を渡すなど、従業員の気持ちに寄り添うように様々なフォローをしています。また、役職関係なく全員に対して行われる改善アンケートを年に4回行い、働きやすい環境作りをしています。そうすることで、自分ごととして考えるようになり、結束力が高まるのです。
そして今、井出トマト農園では管理職の育成に力を入れています。現在はトマト農園での作業を希望して入る人がほとんどで、その中で人をまとめる管理職を希望する人は少ない状況です。その悩みを先輩の経営者の方にしたところ、「こんなに誇りのある魅力的な仕事をやっているのだから、理念の共有をもっとすればいい」とアドバイスをもらいました。それから、事業計画書を朝礼で読んだり、チーム長を含めた経営会議の開催、個人面談の実施と従業員と近くで経営のことを話す機会を作りました。このように、システムの導入で働きやすい仕組み作り、社員一人一人の感情面に寄り添うことで、人材の定着につなげています。
コンサル・システム開発の会社の経営もしている井出さん。「食べていける、自立した農家さんを育てたい。」そんな想いを胸に抱いています。道具ではなく、農業経営の経営力を高めるためのスキルを身につけていけば、それが叶うといいます。そのためもデータ収集が大事なのです。IT技術を使っての農作物の栽培は、安定した栽培量と品質の維持が可能です。今後、都市農業の新しい形を追求していきたいと思っています。
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